※よって協働体においては各個共通の利益こそが尊重され、共通項を持たない個々の利益は無視、時に圧殺される。
これまでは、一協働体内においての権力の所在、支配・被支配関係についてみてきた。
では、協働体間のそれまたは抗争についてはどうか。これについては、少なくとも前項に記したのみの条件下(協働の構築とそれに伴うリーダーの誕生)において、存在しえないといえる。その理由は単純に、ある協働体が別の協働体を支配下に置くこと、あるいは抗争することに(協働体のひいては協働体の各構成員の)利益がないからである。
それでは、協働体に上記の行為を実行する利益をもたらしたものは何か。それは農耕・牧畜文化※といえよう。
何故、農耕・牧畜が他協働体を支配下に置く、あるいは抗争関係をもつ利益を担保するのか。この根拠については農耕・牧畜の持つ以下の特性によって説明されるはずである。
すなわち、価値の保持と「生産」に伴う労力である。
まず、価値の保持についてである。農耕・牧畜の誕生以前の協働体は、協働によって得られる利益をその場で分配、消費するしかなかった。(たとえば、狩猟・によって得られた食料は、その場で消費しないことには腐敗してしまう。)しかし、農耕・牧畜文化の誕生によりその価値を未来への欲求の充足に対する担保として存続させることが可能となったのである。具体的には農作物の貯蔵・保管、家畜の飼育、などである。そしてこの価値の保持・存続が同時に協働体間抗争の、いわゆる「火種」を生み出したといえるであろう。
では次に「生産」に伴う労力について述べる。農耕・牧畜という生産活動には、当然それに伴う労力(苦痛)が求められる。そこで、彼らはその労力(苦痛)を取り除く、あるいは軽減する手段を模索することになる。その手段として最も有効なものが他協働体からの「強奪」である。前述のように、農耕・牧畜の特性として、価値の保持・貯蔵がある。つまり、保持・貯蔵されている農作物、家畜の強奪によりそれまでの生産過程に伴う「労力」を省略することが可能となるのである。
つまり、農耕・牧畜における「価値の保持」という特性がいわば「原因」となり、同時に「労力の必要性」が「動機」となって、強奪という発想が生まれ、それを実行するため、あるいはその脅威に対する対抗策として「抗争」がうまれたのではないかと推測できるのである。
そして、その抗争の連続による協働体の成長・肥大化によりその後さまざまな統治システム、支配システムが成長したのであろう。
※ 農耕、特に稲は腐敗しにくいため、また家畜は基本的にその生命が存続する限り価値を保持することができる。
さて、先に見たように抗争の連続で協働体が成長、肥大化するといわゆる支配階級は寡頭化する。つまり、ごく少数の支配階級が多くの被支配階級を抱える形が一般化することになる。さらに、その少数の支配階級のみが、協働による利益を独占するのである。それに伴い、その多数の被支配階級の制御・統治が協働体・組織の新たな課題となってくる。つまり、この時点において協働体はもはや全体の利益の最大化を目的とした組織ではなく、少数の支配階級の利益の最大化のみが目的となっている。この状況下で如何にして、数の上でも上回る被支配階級に抵抗されることなく彼らの利益にならない労働を強いるべきか?この命題を解決しなくてはこの組織は崩壊するのである。
そこで打たれる解決策として、まず被支配階級内部の組織化の阻止が挙げられる。如何に彼らが多数であったとしても彼らの利益を主眼に築かれた組織が無いのであれば支配階級に対抗する勢力とはなりえないのである。よって往々にして支配階級は被支配階級の組織化を最も恐れる傾向がある。
第二に、そもそも被支配階級に「利益追求」の意欲を放棄させる、あるいは支配階級に都合の良い価値観・満足の基準を植えつけるという手法が挙げられる。まず前者であるがこれはいわゆる被支配階級の所属者に「自らの階級ではそもそも利益の追求は不可能だ」といういわゆる「あきらめ」を定着させる手法である。奴隷階級などはこれに属する。後者は被支配階級を啓発し、支配階級の利益の実現を目的とした組織の「歯車」として行動することに満足を感じるようその価値観、人格を恣意的に改造するという手法である。これは、俗にイデオローグ、洗脳と呼ばれるもので前者と比較して支配階級にとっては忠実な存在であり、望ましい形態といえよう。
このように組織が肥大化を遂げると支配階級と被支配階級が誕生し、支配階級が被支配階級を自らの利益の下に組織化、統御することになり、支配階級はその限りにおいて利益を享受し続けることができる。それに失敗した場合、特に被支配階級に彼らの利益追求を目的とした組織の結成を許した場合は数の上で上回る被支配階級がその利益追求の障害となる支配階級を排除することになる。これが「革命」※である。
※これについては古代における奴隷の反乱から、フランス革命、さらには近・現代におけるクーデターの多くにもその例を見ることができる。
以上に見てきた現象・組織は現代の政治的アクターにも当てはめることができる。
まず、1で書いた組織を構成する個々人の利益を代表する集団であるが、これは今日の利益集団にも当てはまるといえる。よって利益集団内に明確な階級差は無く、組織のトップもあくまでその構成員の利益の最大化を主眼に行動しなくてはならない。日本における農協、医師会その他もあくまで「主役」は一構成員である。
次に3で書いたような支配・被支配関係を含む組織は宗教的組織、イデオロギー色の強い政治団体、倫理的な価値観に訴える政治団体などである。これらの組織は被支配者に、教義、イデオロギー、倫理などを啓発し支配階級の意図するままに行動させることができる。よってこの種の組織のリーダーは組織内においては絶対的影響力を保持し、また利益、財を寡占することができる。
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